グローバル資源テーブル


 エネルギーに関する研究は否応なしに、エネルギー問題が現代社会の大量生産・大量消費構造と密接にかかわっていることを知らせてくれる。そして、エネルギーだけでなく様々な資源、空気、水、工業材料、生物資源、動物などを含めた、総合的な関連性を含めて理解する必要を感じさせる。


日本における物質のフロー

 そこで、まず簡単な計算をして、日本における物質資源のフロー(生産、輸入、蓄積、輸出、廃棄、リサイクル)を調べてみると、資源の大規模な流れを理解できる。日本における物質のフローを示すと以下のようになる。日本は、6億トンの資源を輸入し、1億トンの製品を輸出している。そして、7.3億トンの酸素を吸入して、化石燃料をもやして10億トンの炭酸ガスを放出している。国内からは土砂など12億トンの資材を掘り出し、廃棄物として3億トンが処分されている。差し引きすると年間11億トンの資源が橋や道路などになって蓄積されてゆく。これらの物質の流れを支えているものがエネルギーである。土砂以外の国内産出物は3億トン弱であり、輸入資源の重量の半分は化石燃料であるので正味の土砂以外の材料資源は6億トン程度ということになる。このうち3億トンが廃棄処分され、1億トンが輸出されるので、正味の土砂ではないストック増加量は2億トンということになる。大量の資源が流入し消費され廃棄物を生み出していることがわかる。

資源と環境についての勘定体系

 地球上の資源やエネルギーの利用は、人類の活動の規模が増大することによって幾何級数的に拡大してきており、その相互関係を知ることができれば、将来に生じる問題を考察したり予測するのに有効であろう。そこで、次のような内容を表現するわかりやすい一枚の表を作れば有益と考えた。

  (1) 化石燃料消費と大気との関係   (2) エネルギー消費と材料資源との関係   (3) 人間と食糧資源の関係   (4) 資源のリサイクル   (5) 資源のストックとフローの関係

 こうした資源間の記述を行うために、既存の表現方法を調査してみると、国民経済計算、企業会計計算、エネルギーバランス表などが参考になることがわかった。このうち、国民経済計算は、経済活動をフロー(一定期間の所得)、ストック(一定時点での資産の残高)、モノ(実物取引)、カネ(金融取引)の面から表示しようとするもので、表示単位は金額である。
 企業会計計算は、一企業の経済行動を記録するもので、損益計算(フロー)と貸借対照表(ストック)からなっていて、表示単位は金額である。
 国民経済計算を、環境や資源の計算を含めたものにしようとする試みがいくつか知られている。昭和63年版「環境白書」では「環境資源の管理」の項で次のように述べている。
「環境資源の適切な管理のためには、環境資源の価値を総合的に評価するためのデータ整備を行うとともに、生態系のメカニズム、環境容量、地域住民の快適性に対する選考等を勘案した指標の開発等を進めることにより、地域の自然的、社会的条件を踏まえた環境資源の適正な保全、利用及び創造を図るためのビジョンや目標を示す必要がある。OECDでは、1985年の環境大臣会合の宣言に沿って、『自然資源勘定』等の開発による自然資源の管理の改善への試みが行われている。『自然資源勘定』は、物質資源、環境、経済活動との関連を総合的にとらえ、自然資源利用について、資源のストックとフローと環境の状況の変化を定量的にとらえようとするものである」
 ここで述べられている「自然資源勘定」はノルウェイで研究されている「Natural Resource Accounting」などを指していると思われる。現在までのこの分野の研究は、ノルウェイとフランスにおいて行われており、日本にも紹介されている。


 次にエネルギーバランス表をみてみると、これはひとつの国のエネルギー需給を示す、タテ・ヨコのマトリックスで、ヨコ方向には、各種の供給源(石油、石炭、天然ガスなど)、タテ方向には、トランザクションと呼ばれる資源の取り扱いが記入されるようになっている。トランザクションは3つのブロックにわかれており、第1のブロックは各々の資源の生産(自然界からの採取)、輸出入、在庫変動があり、ここで一次エネルギー合計がもとめられる。第2のブロックでは、各々の資源の転換過程が記述され(精製、乾留、発電など)、ここで二次エネルギーがもとめられる。第3のブロックは最終消費であり、各々のエネルギーが、農業、工業、民生、交通の各分野でどのように消費されたかを示すようになっている。
 エネルギーバランス表の表示単位は、個別の資源でとの固有単位(kl、KWHなど)を使うこともあるが、表の全体にわたって統一した単位として熱量換算値(Kcae、ジュールなど)を使用するのが一般的である。
 エネルギーバランス表は、一国の1年間のエネルギー使用量を記述するものであり、全体として経済活動に関与するものだけを表現しており、化石燃料の埋蔵量や、地熱の寿命、あるいは廃熱などは扱われていない。物理的に見るとエネルギーは使用後はすべて低温の熱となって環境へ放出されるわけであるがこうした量については扱われていない。


グローバル資源バランス・テーブル

 エネルギーバランス表のヨコ軸には、資源としての供給源が列挙されているが、エネルギーの中に廃熱を含め、エネルギー以外の資源として、大気、水、材料、生物、食糧などを追加し、タテ軸には資源の採取量、消費量、ストック量やリサイクルが表示できるようにして、地球全体の資源のありかたが一望できるものを作成し、これを「グローバル資源バランス・テーブル」と呼ぶことにする。
 グローバル資源テーブルのヨコ軸にに記入される資源としてここに示したものは、大量に利用されるものであるが、将来は、少量であっても環境に対する影響の大きいものを含めたい。たとえば、水銀、鉛、PCB、フロン、放射性物質など、大気中にまたは河川から海へあるいは地下水へと拡散してゆくことによって、私たちの住む環境全体が巨大な廃棄場と化しつつあることをこの表が記述することになろう。 これらの物質は、様々な製品の中に入り込んでいるが、結局はどこかへ廃棄されているわけで、長期には地球全体がケミカル・スープのようになってしまうおそれが大きいからである。
 さて、ひとつの例として作成した「グローバル資源バランス・テーブル」の内容について簡単に説明する。  まず、ヨコ軸方向に各々の資源について述べる。


(1)大気
 大気は標準状態で3.96×109km3の体積をもち、その重量は46×106億トンになる。このうち酸素は12×106億トンであり、1年間に150億トンが消費され、これはストックに対して0.0012%の割合になっている。炭酸ガスは現在350 PPMVを占めておりこれは27000億トンに相当する。1PPMVの重量は77.1億トン(C換算で21.3億トン)となる。CH4とN2Oは、単位量あたりの温暖化寄与の大きいガスである。CH4は1.6PPMVあり、重量は46.6億トン、N2Oは0.3PPMVで23.3億トンがストックとして大気中に存在する。CH4の発生源は、水田、家畜(はんすう動物は飼料の8%のエネルギー相当分をメタンとして排出する)、湿地である。この他に化石燃料の採取に付随して空気中に放出されるといわれている。N2Oの発生源は森林と化石燃料である。SO2とNOXは大気汚染物質として知られており、ともに年間1億トン程度発生しているが、大気中のストックは大きくなく、降雨などにより地上へ降下し、これは結局地上に堆積するか、川から海へ流れてゆくものと考えられる。この他に大気中に浮遊する粒子があり、平均90μg/M3が計測されている。これは3.5億トンに達する。

(2)水
 水は陸上に100×106億トン、海中に13500×106億トン、大気中水分として0.13×106億トンがストックとして存在する。人間が利用している水は3×104億トンであり、このうち73%を農業に、21%を産業用に利用している。人類50億が飲用に供しているのは正味で45億トンである。海、陸、大気中の水は互いに移動しているが、その大きさは±0.4~4×106億トンであり、ストック量に対して動いている水はごくわずかである。

(3)エネルギー
 石油、石炭、ガスについてはよく知られている。マキは6.6億トンが途上国の農村地域で消費されている。利用したエネルギーは結果としてすべて発熱の欄に記入されている。この熱には、人類や家畜からの発熱も含まれるが、これは食糧生産時に吸収される。光合成は吸熱反応であり、化石燃料の消費による発熱量の20倍の規模になっている。

(4)材料
 主要な材料として、重量の大きいものをとりあげてみた。鉄8.9億トン、セメント9.6億トン、紙2.7億トン、肥料1.3億トンが主要な材料として利用されているが、この他に木材が4億トン利用されている。金属資源を考える場合には、鉱石を考慮する必要があり、鉱滓の発生は量的に無視できない規模に達する。ここでは扱っていないが、金属は最終用途で利用されてゆくときに、空気中の酸素を吸収して錆びてゆく。将来は、SO2やNOXによって金属が減耗してゆくことをこの表で扱わねばならなくなるであろう。なおセメントの生産時の反応から化石燃料起源ではない炭酸ガスが放出している。

(5)生物・食糧
 ここは、生物学的な資源として植物・動物をとりあげている。森林は41億haあり、その減少は1980年に1,130万ha/年、最近では1,500万~2,000万ha/年に達していると推定されている。このうち農地や住宅地などに転用されてしまうものが半分、残りは移動耕作ののち休閑林として残るとされている。森林の破壊によって放出される炭酸ガスは、数億トンから20億トン程度と推定されているが確実な数値は未知のようである。切り出される木材はおよそ32億M3、重量にして12.6億トンに達する。このうち16.6億M3が燃料として使われ、残りが産業用に利用されている。この一部分から2.7億トンの紙が生産されている。穀物生産は18.4億トンあり、このうち60%が人類の食糧に、40%が家畜に供給され、家畜は2.2億トンの肉類となりこの他に0.8億トンの魚類が食糧になっている。
 次にこの表をタテ軸方向にみていくつかの補足をしよう。表中には太陽エネルギーの流れは記入されていないが、光合成によって、炭酸ガス3,700億トンを酸素2,700億トンと炭素1000億トンに分解する。ただし同時に有機物の崩壊により反対方向の反応が生じていておよそバランスがとれていると見られている。資源の利用段階として、一次利用と二次利用についてはエネルギーバランス表の概念を借用している。部分的に異なるところとしては、材料資源を加工して工業用材料を生産する工程を二次利用に含めているので、エネルギーバランス表の最終用途の産業部門の一部が二次利用のブロックに移動している。
 最終用途のところでは、生産的資源の転換活動としての農業、生産的存在としての人類と家畜を扱っている。人類は穀物11億トン、農産物18.9億トン、肉類2.2億トン、魚類0.8億トンを食糧として、酸素を14億トン吸入して、炭酸ガスを19.3億トン放出している。この計算は、体重70㎏の人間が1日に酸素0.862㎏を吸入し、炭酸ガス1.056㎏を放出することから計算した。なお、さらに飲料水2.51㎏、食物中から水分1.01㎏をとり入れ、尿1.61㎏、呼気と汗中の水分2.13㎏、糞(乾量)0.09㎏を放出する。
 これに50億人と365日をかけると、人類の生物としての存在はかなりの量の資源と関係をもっていることがわかる。
 家畜の放出する炭酸ガスも無視できないと予想される。地球上には、牛12.8億頭、豚8.4億頭、鶏94億羽、羊11.6億頭がいる。各々の平均体重を450、60、2、40㎏と仮定し、基礎代謝量が体重の0.7乗に比例するとして炭酸ガス放出量を計算してみると、牛から18.1億トン、豚から2.89億トン、鶏から2.91億トン、羊から3.02億トンとなり、合計で26.92億トンとなる。他の家畜や野性動物が放出する炭酸ガスは今のところ計算できないが、これと同じかより大きい規模になるであろう。
 地球上の人類の総体重は約3.5億トン、家畜の総体重は6.85億トンとなり、地球上にいる動物の中で人間の占める割合もかなりの大きさになっていることがわかる。
 上記の二次利用、最終利用の各々の欄の数値は、投入をマイナスで、産出をプラスで表現している。
 下段のブロックは最終処分であるが、ストックへの追加を符号つきで表し(マイナスはストックの減少)、廃棄は資源として利用できなくなったものをまとめ、最利用されるものはリサイクルの欄に記入して翌年には一次利用の欄のリサイクルへもどされるようにした。(ここでは同じ数値が入っている)

グローバルな資源間の関係

 以上、簡単に「グローバル資源バランス・テーブル」について述べたが、この表をもとに様々な検討を行うことが次の課題である。以下にはいくつかの考察について述べる。

(1)炭酸ガスの発生量
 生物としての人間ひとりの活動をみると、図2に示すように、1年間に食糧として穀物と肉類を各々150、30㎏とり、酸素を260㎏消費して、炭酸ガスを360㎏放出していることになる。これに対して工業的な活動として、化石燃料を1000㎏消費し、酸素を2600㎏吸収して炭酸ガスを3600㎏放出している。結局、生物的な水準の10倍の規模の炭酸ガスが工業的活動から排出されている。これは世界平均であり、米国では55倍になり開発途上国では限りなくゼロに近いところもある。日本は年間10億トンの炭酸ガスを化石燃料の燃焼によって放出しており、これはひとりあたりでみると生物学的放出量の25倍に相当する。
 この炭酸ガスの比較は、地球上の人間がひとりあたり平均10人の奴隷を有することを意味し、米国では55人、日本では25人の奴隷を持つことと同じである。もちろんネパールやブータンではこの値はもっと小さくなる。
 無視しがたいのは家畜であり、人類よりも炭酸ガス放出量は大きい。家畜の一部は宗教的理由から食糧の対象になっていないし、また野性動物の発生する炭酸ガスもかなりの量になっていると推定されるが未知数である。ただし上記のような生物学的な活動は光合成による食糧生産によって維持されており、化石燃料のように地中から単に掘り出してくるのと違って炭酸ガス濃度の上昇には寄与しない。ここでは、炭酸ガスという視点から人類の活動を比較しようとしたわけである。

(2)廃熱と直接的温暖化
 エネルギー消費の結果は、そのほとんどが廃熱となって環境中に放出される。このエネルギー量は地球上に降り注ぐ太陽エネルギーの3万分の1程度であり無視し得るものと考えられてきた。ところで、この熱量を大気が吸収した場合にどの程度の温度上昇になるのかを試算してみると興味ある結果を得る。
 1985年の世界のエネルギー消費量Eは

  E=252×1018J

 このうち5%は水力発電であり、上記の95%は熱として、河川、海、大気中に放出されるが、多くの場合ほとんどが結果として大気中に吸収される。
 地球上の空気の量Mは

  M=4600×1012トン=4600×1018g

 またこの空気の比熱Cpは

  Cp=1.006J/g・k(273~323k)

 したがって、1年間に放出されるエネルギーがもたらす温度上昇は次のようになる。

 Δt=E×0.95/(Cp×M)=0.05173k

 この計算結果は、もし大気温度の上昇によって地球から宇宙空間への熱放出が変わらなければ、毎年約0.052kの温度上昇になることを示している。あるいは、現状のエネルギー消費が19年間継続すると、大気温度は1℃上昇することを意味する。

 そこで過去100年間のエネルギー消費(E100)から同様の計算をしてみると

  E100=1000×1018J
 Δt=E100/(Cp・M)=2.053k

 すなわちエネルギー消費が大気中に廃熱となって大気温度の上昇をもたらしたとし、これによって宇宙空間への熱放出が増大しなかったとすれば、約2℃の大気温度の上昇があったことになる。過去100年間の気温の上昇は0.5~0.7℃とされており、これには長期的な地球の気象変化として気温降下の要因も含まれている。また気温が上昇すれば海洋や陸地との熱交換が増大し、海洋と陸地の温度もわずかだが増大して気温上昇の程度を弱めていると考えられる。しかしながら、エネルギー消費が歴史的にみると急速に増大してきたこと、そしてこの廃熱が地球上に累積されることは無視できない。太陽エネルギーの入射量は毎年0.03%の統計的変動を示しているが、平均化されるので一方的に増大して蓄積されるものではない。
 上記の計算は、エネルギー消費が増大してゆくと、炭酸ガスによる温暖化だけではなく、「人工的廃熱による直接的温暖化」も考えなければならないレベルにあることを暗示している。

(3)資源フローの量的比較
 各々の資源が1年間にどの程度利用されているのか、量的な比較を行ってみると興味深い。  まず、最も大量なのが水であり、3兆トン/年と推定される。次に大きいのが210億トンの炭酸ガス、そして酸素となり、これに続くのが70億トンの石油・石炭・ガスの化石エネルギーであり、さらに10から20億トンのところに食糧と木材がある。鉄、セメントは10億トンの規模に達している。そして大気汚染物質とされるSO2、NOx1億トンにもなり、大気汚染物質というよりも未成熟な技術の使用により大気中に放出された大量の工業材料といえるほどの量である。その環境への影響が未知のまま放出が進行すると、自然生態系への影響は想像を絶するものになると感じられる。


参考文献
1.槌屋、「エネルギー耕作型文明」東経選書、東洋経済新報社、1980年
2.A.B.ロビンス、室田・槌屋訳「ソフトエネルギーパス」1979年、時事通信社
3.J.ゴルデンバーグ「Energy for a Sustainable World」World Resources Institute,1987年
4.細野宏「自然資源勘定-ノルウェー等における取組みについて-」季環境研究 1989年 NO.73
5.松井、「エネルギー経済論」日本工業新聞社
6.H.E.Daily, Toward a Measure of Sustainable Social Net National Product,Envionmental Accounting for Sustainable Development
edited by Yusef J.Ahmad et.al, A UNEP - World Bank Symposium.
7.槌屋、「グローバル資源テーブル」研究技術計画学会、Vol.4,No.2,1989年
8.槌屋、「グローバル資源バランス・テーブル」エネルギー資源、Vol.11, No.1,1990年
9.World Resources 1987, 1988-89, World Resources Institute,Washington.
10.栗原、有限の生態学、岩波新書