IT革命の経済社会への影響

 今や、21世紀を迎え、高度情報化社会への突入が現実のものとなった。コンピュータと通信技術が結びついてIT(情報技術)革命が進行し、新たなる経済構造の変化というテーマに多くの人々が注目するようになった。
 その例はインターネット・ショッピングの急速な拡大、電子メールの日常化、電子出版の増加、エレクトロニック・コマースの台頭、電子マネーの実験などに見ることができる。
 ITの経済への浸透が進むのは避けらそうにれない。エレクトロニクスによる技術革新の波が新しい発展の可能性とおそらく問題点をも経済の分野に持ち込んでくると思われる。
 一方で21世紀に向けて地球温暖化問題などによりエネルギー・資源の効率的利用、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出削減が重要になっている。もし、資源やエネルギーや鉄やセメントをあまり多く使わずに、雇用が確保でき所得が配分され、スムーズに経済をまわしてゆければ望ましいことである。

1.誰もが自由に情報を入手できる

 IT革命によって生じるもっとも重要な変化は、誰でもが様々な情報に自由にアクセスできるようになることである。ベルリンの壁があんなにも簡単に崩壊するとは人々の予想を越えていた。東ヨーロッパの人々は漏れて入ってくるテレビ、映画、音楽を通じて自由な世界についての情報を得ていた。20世紀の最後の10年に東西冷戦は見事に崩壊してしまった。多くの人々はこの原因にメディアの力、自由な情報の力があったと考えている。
 企業活動に関係する情報においても同じことが生じる。世界各地の優れた技術や製品がインターネットを通じて人々の目に直接的、具体的に触れるようになる。大企業であろうが零細企業であろうが、情報を入手する条件は同じになってくる。いわば情報民主主義である。ブロードバンドのネットワークからセミナー映像が配信され、新しい知識やデータが簡単に手に入り、学べるようになる。必要な情報が低コストで高速で伝わる。そうすれば、新製品開発や生産・販売に関する各種の問題の解決にこの情報を生かすことができる。

2.ITは流通システムを変える

 インターネットは流通システムの変化をうながしている。すでに電子市場を通じて、書籍、自動車、株式、不動産など多くのショッピングが行われている。消費者が生産者と直接結びつき、手軽に安く買える、産直でよいものが買える、時間が節約されるという利点が認識されつつある。このような一般消費者を対象にするB to C(Business to Consumer)市場のみにとどまらず、企業間の材料や部品の購入にもB to B(Business to Business)市場が押し寄せている。実際にはB to B市場のほうが10倍も大きいと予想されている。企業はグローバル・ネットワークを通じてもっとも低コストで性能のよい部品を購入し、入札を受け付けている。この電子市場の効果は地球規模で見知らぬ企業同士を結び付ける力をもっている。

3.ITは紙を電子化する

 IT革命のもっとも重要な特性を、摩擦なし経済、非物質化経済という人がいる。情報産業の多くは、情報そのものを生産・販売しているのに、実際は紙資源に情報を載せて、紙を輸送しているのが現実である。ITは紙を電子化してゆく。重さがほとんどない電子が移動することで情報を転送する、これが摩擦なしの経済である。
 電子書籍は、書籍の絶版、返本などと無関係にできる。現実に、書籍や雑誌の多くはその30-40%が返本という悲劇に会っている。全国各地にある書店には毎日発行される大量の新しい本を置く場所がないので1週間経っても売れない本は版元へ返本するしかない。返本されると雑誌の場合には情報が古くなって価値がなくなるためそのまま廃棄される。これは紙資源の浪費である。電子書籍になれば、絶版がなくなり、何時でもどんな本でも電子書籍ライブラリーから読みたい本を読み出すことができるようになる。

4.ITは輸送を変える

 1999年12月に、ワシントンの非営利団体・気候エネルギーセンターは「オンラインショッピングが二酸化炭素排出の減少に役立っている」というレポートを発表した。97-98年に米国経済が成長を続けたにもかかわらず、エネルギー消費がほとんど増えていないのは、インターネット経済のためだという。報告によると、表1に示すように、インターネットによる書籍販売で有名なアマゾン・コムが1冊の本を売るためのエネルギーは、普通の書店の16分の1であり、書店の陳列スペースが不要なため建物の費用と維持費が少なくてすむ。また、インターネットによる通信販売はショッピングセンターへマイカーでゆくよりもエネルギー消費が少なくてすむ。インターネットで約5キロの品物を注文して、翌日配達の航空便で送ってもらえばマイカーで買いに行くよりエネルギー消費が40%少ない。時間をかけてもよければトラック便で送ってもらえるし、このときはマイカーを使うのに比べて10分の1のエネルギー消費ですむという。
 米国では電子メールの普及によって、飛行機に乗る回数が減ったという人がいる。これまでは何度も打ち合わせに出かけなければならなかった仕事の能率が、電子メールの交換によって向上している。電子メールで交換したファイルをお互いに修正しながら、目的のものに仕上げてゆくことができるので、打ち合わせに出かけなくても仕事の能率は目にみえて向上する。これはいままでになかった新しいビジネスの方法である。すでに一日に100通を越える電子メールをさばいて仕事をしている人も増加している。

5.問題もある

 ITによる輸送や紙の代替は資源効率の点から望ましいが、電子機器の待機電力の増大、小口輸送の増大、ジャンクメールの増大などの問題が生じてくる。 小口輸送は一括バルク輸送よりも合計のエネルギー消費が増大するかも知れない。しかし、人々がクルマで買い物にゆくために消費されるガソリンは節約される。 バルク輸送によって大きな容器に入れて各地域まで輸送して、そこで消費量に応じて小型の容器に詰め替えていた従来の方法は、それなりに効率が高いと考えられてきた。しかし、貨物輸送を行う方式が変化することは避けられそうにない。この結果、全体として輸送量が増大するのか減少するのか、輸送のエネルギーが増大するのか減少するのかは、今のところ未知である。
 以上のような可能性と問題点を表1のようにまとめてみた。21世紀の最初の10年を過ぎるころにはIT技術は社会の隅々まで浸透してゆき、エネルギー資源効率を高め、地球環境問題の影響を小さくするように経済構造を変化させるようにできるはずである。しかし、それは私たちがどのような社会を作ろうとするかにかかっている。

表1.IT革命の材料資源とエネルギー消費への影響
IT革命による社会の変貌 材料資源への影響 エネルギー消費への影響
資源、エネルギー、環境についての
広汎な情報の自由な入手
資源リサイクルの増加、
省資源ライフスタイルへの移行
省エネルギー意識の普及
SOHO(Small Office Home Office) オフイス建築・設備投資の減少 交通需要の減少
サテライト・オフィスとTV会議システム   交通需要の減少
電子市場(B to C)コンシューマー市場 小売店舗などの建築・設備投資の減少 交通需要の減少、小口配達の増大
電子市場(B to B)企業間市場 倉庫などの建築・設備投資の減少 小口輸送の増大、輸送距離の増大
電子書籍・電子新聞 紙の消費減少 輸送需要の減少
音楽・映像の電子配信 材料資源消費の減少 輸送需要の減少
電子メール 紙の消費減少 交通需要の減少
ジャンクメール  
電力消費のムダ増加
詳細なコンピュータ管理による生産 材料歩留まりの向上、在庫回転率の向上  
配送システムの効率化   輸送効率の向上、積載効率の向上
ワンツーワン・マーケティング 見込生産ロスの減少 大量配送の減少、小口配達の増大
コンピュータ制御による効率の高い製品   エネルギー消費の減少
待機するコンピュータ・通信機器の増大 材料資源消費の増大 電力消費の増大
時間の短縮による生産消費活動の速度の増大 材料資源消費の増大 新規交通需要の増大、新規輸送需要の増大